5月23日朝日新聞社説、刑事訴訟法320条1項を分かってますか?

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 5月23日の朝日新聞の社説は「加計新文書 首相答弁の根幹に疑義」というものであった。これは愛媛県が国会に提出した一連の文書の中に、安倍首相と加計孝太郎理事長が2015年2月25日に面会して獣医学部新設について話していたことを示すものが含まれていたというもの。その中には首相が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたとあり、それが事実なら、首相は2017年1月に学部新設を知ったという説明と矛盾するだろうとしている。

朝日新聞に刑訴法は通用しないのか・・

 これに対して学園側も首相も直ちに否定。しかし、朝日新聞は文書の信憑性が高いとしている。その理由は2つ。

①リスクを冒して虚偽のやりとりを書き留める動機が県職員にあるとは思えない。

②県の文書の中には、首相との面会に先立ち、学園関係者が、当時、官房副長官だった加藤勝信厚生労働相と会った記録があり、加藤氏はこの面会を認めている。

 そもそもこの文書は愛媛県職員によるメモで、加計学園の関係者からの報告を受けて作成したという。つまり加計学園の関係者が話したことをそのままメモしただけ。このような書面がもし刑事裁判で出てきたら、刑事訴訟法上、伝聞証拠と呼ぶ。刑事訴訟法320条1項の一部を示そう。

 「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない」

 分かりやすく言えば、又聞きや紙に書いてあるものは刑事事件の証拠として採用できませんよ、ということ。もちろん例外はあるが、この条文の趣旨は「又聞きで聞いたようなことを証拠にして、有罪にするのは危険だからダメですよ」ということ。つまり「又聞きや書いてあることを証拠にするより、直接、本人に聞いて真偽を確かめなさい」という趣旨である。

 今回の場合、加計学園も安倍首相も文書の内容を即座に否定している。そして、朝日新聞自身、2015年2月25日の首相動静に安倍首相が面会した事実を書いていない。

 その点「新聞が報じる首相の動静も、記者が確認できたものに限られる。気づかれずに会う手段はある」としている。自分たちの記事はすべての真実を書いているとは限らないぞ、ということを一つの論拠としている(笑)。というよりも、首相動静は総理番の記者が1日中、官邸に張り付いて見ているのであろうから、そこに記録がないということは、その事実がなかったという傍証になる。安倍首相の反論の論拠の一つは朝日新聞であり、その朝日新聞が「ウチの記事は全部正しいとは限らないぞ」と言っているわけで、だったら報道なんてやめてしまいなさい、と言いたくなるのは僕だけではないだろう。

 さらに朝日新聞は「会っていない根拠の提示は全く不十分だ」と書いているが、会っていたとする根拠が十分ではない」というのが真実であろう。誰かが伝聞証拠を持ち出して「あやしいぞ」と言い出し、疑惑をかけられた人が潔白を証明しなければいけないとしたら、どんなに恐ろしい社会か。刑事事件と政治は違うという言い訳をするのかもしれないが、真実の証明という部分では基本原理は同じ。疑惑だという人が証明しなければ、なかったことを証明することなど普通はできない。

 僕は真実は分からないが、朝日新聞の主張だけで首相が嘘をついているというのはとても信じられない。普通に考えれば、官房副長官だった加藤勝信厚生労働相と会った記録があり、加藤氏はこの面会を認めているというのだから、そこで「首相もそう思ってるんじゃないの?」といった程度の軽い会話があり、それが伝言ゲームの中で変質していった可能性は高いと考えるのが通常の思考だと思うが。そういう可能性を考えずに一足飛びに首相批判というのは、客観的分析ができない人たちが新聞をつくっているのかなと思わせられる。

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