大型クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号でのウイルス検査が陰性で2月19日に下船した乗客のうち、栃木県の60代の女性が感染していたことが22日、明らかになった。この点について「下船後に乗客を隔離すべきであった」という声も出ている。しかし、現行法で考えると実現は簡単ではない。問題は法整備が十分ではない点にあると思う。

■台湾では検査隔離、日本では公共交通機関で帰宅

厚労省のホームページではQ&A形式で国民に説明

 2月19日からウイルス検査で陰性だった乗客253人が下船した。外国人はチャーター機で帰国したが、台北の葛西健二氏からのレポートでは、台湾では帰国した19名を検査隔離する措置を取ったという(参照:「疫病之船」の台湾人19名が帰国 戻ってくるなの声と「香港、おい!」)。

 日本の場合は、下船したら公共交通機関で自宅に戻っている。ウイルス検査で陰性だった者が、下船後に感染していたことが判明したのだから、結果的には隔離した方がよかったのは明らかである。

 この点についてサンデーステーション(テレビ朝日系)の長野智子キャスターが23日、日本政府の方法を外国のリポーターが批判していることをあげて、「政府がきちんと検証して国内外に説明する必要があると思う」と話した。

■感染症法・新型インフルエンザ措置法でも困難か

 問題は下船した乗客の自由をどうやって制約するかである。台湾のように法整備がされていて検査隔離ができればいいが、僕が調べた限り、日本ではそれをする法的根拠はない。以下、僕が関係法令を調べた範囲なので漏れや解釈の違いがあるかもしれないが、その場合は、ご容赦いただきたい。

 そもそも、乗客をダイヤモンド・プリンセス号内に留め置いたのは、検疫法による検疫を行なっていたからである。検疫でのウイルス検査が陰性で、健康観察期間が過ぎた者は感染者、患者とは言えない。患者ではないから、下船が許されたのである。

 患者でもない人間をどうやって施設に強制的に収容することができようか。今回の新型コロナウイルス感染症は2月14 日に感染症法6条8項の指定感染症とされたため、感染症法の規定が適用できる。そうなると19条の入院措置が考えられるが(指定感染症であれば、同法7条1項で準用が可能であろう)、19条は対象を「当該感染症の患者に対し」としているから、検疫で感染していないとお墨付きをもらった者に適用するのは無理がある。

 新型インフルエンザ措置法31条1項で都道府県知事が医療関係者に当該患者等に対する医療を行うよう要請することができるという条文を適用して入院ということも考えられるが、それでも「患者」ではないから難しい。

 つまり、政府が隔離しなかったのは実現するための法律がなかったからと思われる。自主的に隔離に応じるよう、要望を出してほしかったが、それでも全員が応じてくれる保証などない。

■厚生労働省のホームページに脱字、お役所にも焦りが…

 結局、政府としては「入院してください」とか「出来るだけ自宅から出ないでください」とお願いするしかなかったのかもしれない。実際、厚生労働省のHPでは、下船した乗客への対応について「下船した後も、念のため、2週間は健康状態を毎日チェックし、不要不急の外出を控え、一般的な衛生対策を徹底し、咳や発熱などの症状が出た場合には、外出を控え公共交通機関をせず、すみやかに厚生労働省が設置した窓口に連絡するよう周知しています」と書いている。

 太字の部分は「外出を控え公共交通機関を利用せず」の間違いであろう。厚労省もかなり焦ってアップしたものと思われる。

■ウイルス拡散阻止へ問われる民度

 日本では居住の自由、身体の自由を制約するハードルは高い。新型インフルエンザ措置法も、5条で「国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない。」とわざわざ断っている。

 それを患者でもない者を強制的に隔離し、その行動や居住の自由を奪うことを可能にする法律を作った場合、憲法13条や22条1項に反する可能性が極めて高い。

 こういう時のために、憲法に国民の権利を緊急時に限って一時的に制約できる緊急事態条項を作っておくことは重要だと思う。そうであれば、まさに、このような時に隔離という手段が取れる。こうした緊急事態条項に反対しているのは野党とメディアであることは忘れない方がいい。

 この先、下船した人から、さらに感染者が出る可能性は十分にあると思う。こうなったら、下船者に日本人としての倫理観に期待するしかない。こういう時こそ、民度が問われるのである。