先日、教えている留学生のクラスにおける1年間の最後の授業で、ミャンマー人の女子学生が教室の前で涙を流す”事件”があった。講師である僕も思わずもらい泣きしそうになってしまった。なぜ、彼女が泣いたのか、その事情をお伝えしよう。

■学期の最後に成績優秀者発表

 僕が教える専門学校は単位制を採用、前・後期の期末試験があり、そこで成績評価を行っている。成績が悪い場合は進級できない場合もあるため生徒は必死に取り組んでいる。

 僕は答案を返却する際には、パソコンで製作した成績上位者の紹介画面をテレビモニターで公表している。具体的にはkey note(windowsのpower pointのようなソフト)で上位数名の成績順位を示したものを1人ずつ発表したものである。順位と名前を発表する度に生徒から歓声と拍手が起き、学期最後の授業らしい盛り上がりを見せる。

■1位はミャンマーからの女子学生

第1位はミャンマーからの留学生Kさん

 それはある留学生のクラスでのことであった。僕はいつものようにショーアップの目的から多少”もったいをつけて”1人ずつ発表していった。留学生クラスということもあり、順位、得点と同時に、国旗も示した。具体的には示した写真のようなものである(生徒の名前は加工処理した)。

 4位、3位、2位と発表して残るは1人となり、教室内がざわつく中、第1位を発表。今学期のトップはミャンマーからやってきたKさんという20代前半の女性だった。Kさんの名前がモニターに現れるとKさんは少し驚いた様子の後、満面の笑みを浮かべ、同国の友人からは「キャー」という感じの歓声。感激の瞬間である。

 僕はKさんに前に出てきて一言述べるように言い、Kさんは他の学生の前で「頑張ってよかった。嬉しいです」という趣旨の話をした。

■留学生クラスだけの表彰式

表彰式で用いた画面、右上がミャンマー国歌の動画

 日本人クラスであれば、そこで終了であるが、留学生クラスということで特別に表彰式を用意していた。それは出身国の国旗を掲げ、国歌を流すというものである。それもパソコンで予め製作しておいた。

 僕はKさんに前に出たまま残るように言い、他の生徒には「表彰式を行いますので、ご起立をお願いします」と言った。

 (表彰式までやるの?)という感じで苦笑していた生徒たちだが、皆、協力してくれた。その中で、中国人の男性がいつものように帽子を被ったままだったので「これからミャンマー国歌(ガバ・マ・チェ)を流しますので、脱帽してください」と言って、帽子をとってもらった。

 そのあたりから生徒が(先生、本気なんだ)みたいな空気になり、表情から笑いが消えた。僕は「Kさんの栄誉を称え、ミャンマー国歌を流します。モニターのミャンマー国旗にご注目ください」と言い、予めYou Tubeからダウンロードしておいたミャンマー国歌を映像付きで流した。

 僕にとっては外国の国歌ではあるが、優秀な生徒を送ってくれたミャンマー連邦共和国への感謝の思いも込め、右手で左胸を抑え直立不動でミャンマー国歌を聞いた。僕のそうした様子を見たのか、生徒も静かに聞いてくれた。こうして、表彰式は厳粛な雰囲気の中で行われた。

 なお、右上の少し暗くなった部分が国歌の動画である。

■腰を直角に曲げたKさん、そして…

 ミャンマー国歌の演奏が終わり、横を見ると、Kさんが僕の方を向いて腰を直角に曲げている。そして「ありがとうございました」と言うので、僕も「Kさん、おめでとう」と返した。

 Kさんが頭をあげると、顔は涙でグシャグシャだった。それを見て僕は絶句。しばらくして「よく頑張ったね、本当におめでとう」と言ったが、その時には僕も涙がこぼれてしまいそうになった。生徒を喜ばせようと思って始めた表彰式で講師が落涙寸前という考えもしなかった結末となったのである。

■東京での日々を思い出してくれれば本望

 Kさんはなぜ、泣いたのだろうか。遠い異国の地からやってきて頑張れた自分に感激したのか、それとも自国の国歌を東京で聞いたことの感激なのか、それは僕には分からない。

 ただ、この先、彼女はこの日のことを覚えていてくれるかもしれないと考えると、胸に迫るものがある。30歳、40歳になった彼女が東京での生活を振り返った時、教室で流れたミャンマー国歌を思い出してくれたら、日本人としても嬉しいではないか。