WHO(世界保健機関)が2月9日、新型コロナウイルスによる新型肺炎の治療法などについての会議(2月11〜12日)に台湾が参加することを発表しました。これまで中国にWHO(世界保健機関)の緊急委員会への参加を妨害され、中国の意向に沿うWHOへ強く反発していたのが実った形と言えるかもしれません。(台北・葛西健二)

■生命・健康の問題に政治を持ち込む中国

1月22日、会見する蔡英文総統(総統府HPから)

 台湾が今回の新型コロナウイルスの件では、WHOの対応と、その裏に存在する中国の圧力に対して強く反発していました。1971年の中国の国連加盟と同時に台湾は国連を脱退し、その後は国際専門機関への加盟ができません。WHOの加盟も拒否されています。これは中国の「一個中國原則(一つの中国の原則)」の圧力と排除が原因です。特に中国と距離を置く蔡英文政権発足(2016年)以降、関連会議にオブザーバーとして参加することもできなくなりました。

 政治的に孤立している台湾ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行は人々の生命に関することですから、政治的対立を乗り越えて各国が協力し、国際的な枠組みで感染拡大の防止に努めるのが筋です。1月22、23日の2日間、WHOは緊急委員会を開催。さらに1月30日に2回目の緊急委員会を開催し緊急事態を宣言しましたが、どちらにも台湾代表の姿はありませんでした。

 こうした状況の中、米国・カナダなどは台湾をWHOの緊急委員会に参加させるべきと訴え、日本でも安倍晋三首相が1月30日の参議院予算委員会で「政治的な立場で、この地域を排除するということを行うと感染防止は難しい」と答弁し、側面から台湾を支援しました。

■蔡英文総統は日・米・加に感謝の意

 台湾も黙っていません。2月3日、台湾外交部の欧江安報道官は新型肺炎の流行が2300万人の台湾人を含む全世界の人々に対して重大な脅威であることを強調し、それにも関わらず中国が1つの中国の虚構を続けていることは「蛮横無理的邪悪本質」と痛烈に批判しました。

 「蛮横無理的邪悪本質」は「横暴で理不尽な邪悪な体質」といったところでしょうか。日本で外務省の報道担当者が特定の国をこのように表現することは考えられません。それぐらい台湾の怒りは深いものだったのです。

 蔡英文総統は1月30日の会見でWHOが政治的要因から台湾を排除すべきではないとし、同時に台湾のWHO加盟を支持している日米加の3か国に対して「特別感謝美國、日本、加拿大等國,公開支持臺灣加入WHO」と感謝の意を表しました。

 そうした強い姿勢と友好国の有形無形の支援があって、今回、会合に参加することが決まったと言っていいでしょう。

■クルクルと変わった台湾の呼称 その意図は?

 今、振り返ってみると、中国からの圧力があるとはいえ、WHOの対応は実に情けないものでした。中国の意向に唯々諾々と従っているのは、サイト上での台湾の呼称からして明らかです。公式サイトに各国の感染者数を掲載していますが、台湾の感染者数を中国の統計に含め、さらにその呼称を猫の目のように変えてきました。

・1月22日:「中国、台湾」(Taiwan, China)

・1月23日:「台北直轄市」(Taipei Municipality)

・1月25日:「台北」(Taipei)

・2月5日:「台北及周囲地区」(Taipei and environs)

 台湾の国号は正式には中華民国(Republic of China)ですが、1つの中国の原則から中国がその表記を認めるはずがありません。五輪などで使用する中華台北(Chinese Taipei)でも良さそうですが、これは台湾が中国とは別の地域として五輪に参加している時の呼称であり、感染者数を中国に含めている現状と整合性が取れなくなってしまいますし、1つの中国の原則とは反するという考えから認められないのでしょう。

 そこで最初の「中国、台湾」となったものと思われます。ところがこれだと1つの中国、1つの台湾と、台湾独立を認めているかのような印象です。そこで台北直轄市に変更としたのだと思います。

 しかし、台北市を北京政府が直轄していないのは明らかで、北京政府以外に直轄する政府が存在していることを公に認めるようなものです。2日後に台北に変更されたものの台湾は台北だけではありませんから、最終的に台北及周囲地区としたのでしょう。

 このドタバタぶりに前出の欧江安報道官は「到底要改幾次名字? 而且都是錯的(一体何回名前を変更するのか? しかも全部間違いだ)」「我們名字就台灣,正式國名叫中華民國(我々の名は台湾、正式名称は中華民国である)」としました。

■これが台湾 山椒は小粒でもぴりりと辛い

 新型コロナウイルスに関する一連の動きから、台湾の国際社会における立場の曖昧さや、巨大な中国との相対的な関係としての台湾の小ささがあらためて浮き彫りになりました。

 しかし、いかに強大な中国とはいえ、疫病の国境を超えた感染の防止、国民の生命を守るという大義、そして国際社会の声の前にはこれ以上、無理を通せなくなったということなのかもしれません。いい意味で使いますが「山椒は小粒でもぴりりと辛い」というのを、中国も思い知ったのではないでしょうか。

 中国がいかに圧力をかけようと民意を受けた蔡英文政権が続く限り、台湾が中国の望むような形で膝を折ることはないと思います。

葛西健二(かさい・けんじ)>

 1976年、京都市出身。京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。修士論文は「台湾日本統治期初・中期における『理蕃』政策の変遷と『蕃通』警察官ーその役割変化及び言語学習環境ー」。中華民国教育部中国語能力検定試験一級(Master)。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。