台湾は1月24日の除夕(大晦日)から春節(旧暦の正月)が始まります。大晦日の晩に放送される台湾電視公司(台湾テレビ)の「超級巨星紅白藝能大賞」は、1年を締めくくる歌番組です。2020年はEXILEの初出演が話題ですが、実は昨年2019年に元CHAGE and ASKAのASKAさんが出演して話題になりました。ASKAさんは台湾では絶大な人気を誇り、芸能人の枠を飛び越えた存在感があります。それは台湾の歴史とも関係しています。(台北・葛西健二)

■台湾版・紅白歌合戦は2010年にスタート

昨年の超級巨星紅白藝能大賞に出演した時のASKAさん(台湾電視公司画面より)

 台湾版・紅白歌合戦と言っていい超級巨星紅白藝能大賞は2010年に始まり、日本からは過去に青山テルマさん(2011年)、西野カナさん(2012年)、西川貴教さん・中島美嘉さん(2017年)、そして昨年ASKAさんが出演しています。2020年はEXILEが初出演しました。

 昨年のASKAさん出演時、メディアは好意的に報道し、ネットも「歡迎回來(おかえりなさい)」や「等很久了(待ちくたびれた)」など、その「帰還」を歓迎する声が多数みられました。

 ASKAさんは台湾では別格の存在と言ってよく、出演には多くの台湾人が歓声をあげました。

■台湾初の「日本人による日本語でのライブ」

 ASKAさんが熱狂的なまでに受け入れられているのは、台湾の歴史と関係しています。台湾は1987年までは戒厳令下にありました。第二次大戦後、国共内戦に敗れた蒋介石の国民党政府は台湾に逃げ込みましたが、いつ人民解放軍が台湾海峡を越えてくるか分からない状況。そのため台湾は40年間軍政下に置かれ、国民の政治的自由は抑圧されていたのです。

 その戒厳令が解除され、李登輝総統による民主化の流れの中で情報の自由化が行われ、それに伴い公の場での日本語歌曲の解禁、1994年には日本のテレビ番組の放送が全面的に解禁されました。

 日本で1991年に放送された「101回目のプロポーズ」(フジテレビ系)が、1994年に「101次求婚」というタイトルで放送され、大ヒットします。主題歌「SAY YES」も爆発的ヒットを記録。その結果、1994年5月21日、台北で日本語歌曲解禁後、台湾で初の「日本人による日本語でのライブ」がCHAGE and ASKAによって行われ,熱狂的な盛り上がりを見せました。翌1995年にも台北で2日間のライブが行われ、4万人を動員したのです。

■民主化への希望に満ちた時代はチャゲアスとともに

 民主化の波を肌で感じていた台湾の人々が初めて自国で目にする大ヒット曲のグループによるライブです。その時の興奮や喜び、民主化への希望と期待を抱いていた人々に与えたインパクトや影響力、そして熱狂は、自由の国に生きる我々日本人には想像もつきません。

 当時を知る人たちにとってCHAGE and ASKAの伝説のライブを超える存在はないでしょう。CHAGE and ASKAは単なる芸能人ではなく、台湾が明るい時代へと向かう象徴として、多くの人の胸に刻み込まれているのです。

 ASKAさんとCHAGE and ASKAの曲は中国語でも多くカバーされ、台湾や香港など中華圏でヒットしています。例えば「MOON LIGHT BLUES」は金城武さんが「沒有愛情的晩上」というタイトルで、「恋人はワイン色」は林佳儀さんが「週末的下午」として、「男と女」は 周華健さんが「譲我歓喜譲我憂」としてカバーしています。

■超級巨星紅白藝能大賞の司会者との縁

 2019年、ASKAさんが超級巨星紅白藝能大賞に出演したのは、そうしたバックグラウンドを理解する必要があります。同時に、番組の総合司会を務める黄子佼氏との縁も見逃せません。黄子佼氏は台湾を代表する司会者、DJであり、古くから音楽関連のテレビ番組の司会を務めてきました。

 昨年の超級巨星紅白藝能大賞にASKAさん出演時にステージ上で述べたのですが、1995年に始まった黄子佼氏が司会の番組「佼個朋友吧」の1回目のゲストがASKAさんだったそうです。黄子佼氏はこれを「緣分非常妙(とても不思議な縁)」と語っています。台湾版紅白にASKAさんが出演したのも、それと無縁ではないでしょう。

 ASKAさんが超級巨星紅白藝能大賞に出演したことは、台湾にとっては大きな出来事でしたし、これまでの経緯を考えると国外のスペシャルゲスト参加という扱いは当然なのです。

 ASKAさんも思い出の台湾での活躍を機に再び覚醒し…と申しますか、頑張ってほしいですね。

葛西健二(かさい・けんじ)>

 1976年、京都市出身。京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。修士論文は「台湾日本統治期初・中期における『理蕃』政策の変遷と『蕃通』警察官ーその役割変化及び言語学習環境ー」。中華民国教育部中国語能力検定試験一級(Master)。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。