大手予備校の東進ハイスクールの講師の板野博行容疑者(56)が1月8日に強要未遂容疑で警視庁に逮捕されていたと、読売新聞電子版が14日、報じた。報道によると板野容疑者は交際相手の30代の女性に対し、わいせつな動画をネット上に拡散すると脅し、中絶手術を受けさせようとしたという。

■「現代文ゴロゴ」など著書多数

読売新聞電子版より

 板野容疑者は現代文と古文の講師で、古文の単語などを語呂合わせで覚える参考書「現代文ゴロゴ」や「板野博行の現代文教室」など多数の著書がある。報道では容疑を認めているとされている。

 東進ハイスクールは大手予備校の中でも講師の魅力を前面に打ち出す手法で生徒を集めているのはご存知の通り。「今でしょ」の林修先生がその最たる例と言える。

 板野博行容疑者は妻子がありながら、このような容疑で逮捕され、しかも被害者が元教え子ということであるから、東進ハイスクールの受けるダメージは相当なものと思われる。

■強要罪 保護法益は意思決定に基づく行動の自由

 まだ逮捕の段階ではっきりとしたことは分からない。ここは強要罪についてのみ説明しておこう。強要罪は「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。」(刑法223条1項)というもの。保護法益は、意思決定に基づく行動の自由である。

 害悪の告知をして、人に義務のないことを行わせた場合には強要罪が成立する。本件は未遂なので、同条3項に抵触したことになる。

 強要未遂罪は「強要の手段としての脅迫・暴行に着手したが、強要の結果として義務のないことを行わせ、あるいは権利の行使を妨害するに至らなかった場合に、強要未遂罪が成立する」(条解刑法第2版 弘文堂 p613)とされる。つまり、本件では、被害女性が堕胎には応じなかったということである。

■告知した害悪の程度は?

 それでは害悪の程度はどうか。「他人を畏怖させて義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりすることができる程度のものでなければならないと解される」(大コンメンタール2版)とされている。

 他人を畏怖させるに足りる程度のものでなければならない脅迫罪と「実質的にはさほどの相違はないであろう」(条解刑法第2版 弘文堂 p613)としているから、不快感や困惑、漠然とした不安感を感じさせるものでは足りないということ。

 板野容疑者は「どうしても子を産むなら、わいせつな動画をインターネット上に拡散する」と言ったと伝えられているが、これは被害女性を畏怖させるに十分な害悪の告知があったものと判断されたということである。実際に女性は堕胎せずに警視庁に被害を相談、同容疑者の逮捕につながったと報じられている。