台湾では1月11日(土)に第15代総統・副総統選挙と第10期立法委員選挙の投票が全土で行われます。総統選は再選を目指す蔡英文総統(民進党)と高雄市長の韓国瑜候補(国民党)の事実上のマッチレース。最大の争点は「台中関係」にあります。台湾在住21年目、外国人の目から見た総統選を2回に分けてお伝えします。第1回は投票直前の情勢のレポートです。(台北・葛西健二)

■台湾人か中国人か、アイデンティティーが問われる選択

台湾の将来を決める総統選(撮影・葛西健二)

 総統選の両候補の違いは、中国とどのように向き合うかという点です。台湾の将来は大陸との関係によって大きく変わります。総統選はまさに台湾の未来を決める選挙なのです。

 蔡英文総統は中国との対決姿勢を打ち出しています。1月6日に行われた台湾中部雲林県での集会では「中国の台湾に対する圧力は非常に大きいが、台湾は民主と主権を堅持し国家を守らなければならない(中國對台灣壓力會很大 台灣必須繼續堅持民主與主權守住國家)」と中国と明確に一線を引く考えを示しました(HiNet生活誌2020年1月6日付け)。

 1月7日には嘉義縣県集会で、若い世代に対して「国(台湾)のために投票」するよう呼びかけました(自由時報電子版2020年1月7日付け)。

 一方、韓国瑜氏は中国との経済面での関係維持と政治的な関係改善を主張。1月6日の台湾北部・桃園市の集会の席でも「両岸(台湾と中国)の(92年)合意は(署名から)10年を迎え、今年で満期となる。もし継続しなければ台湾の経済・貿易を将来中国で続けることはできない(兩岸簽訂10年,今年到期,如果不簽,未來的台灣經濟貿易在對岸走不下去)」 と訴えました(自由時報電子版2020年1月5日付け)。

 単純に図式化すると民進党は「台湾人」意識を、国民党は「中国人」意識を強調していると考えていいでしょう。台湾の人に「あなたは何人ですか?」と聞いた時に「台湾人」と答える人もいれば、「中国人」と答える人もいます。両候補は選挙民に対し、自らのアイデンティティーを問うていると言っても過言ではありません。

■香港民主化デモが台湾総統選にも影響

 これまでの報道や、現地の雰囲気から、投票直前のこの時期、現職の蔡英文総統が優勢で韓国瑜氏が追い込みをかけている状況と言っていいでしょう。現職優勢の理由としては、香港民主化デモで、あらためて一国二制度の危うさを感じ、大陸に飲み込まれたら台湾の自由と民主主義がなくなるという危機感が高まったことがあります。

 これは、昨年12月31日に「反浸透法」が成立したことも大きいように思います。この法律は国外からの資金援助を受けて選挙運動を行うことを禁じたものです。2018年の台湾地方選挙では中国から国民党に資金援助が行われた疑いが持たれました。選挙に際し、外国から資金援助があるということは国政に外国の介入を許すことに他なりません。

 蔡英文総統は中国を主要な脅威と見做し国政への中国の影響力排除を強く訴えました。このことが中国に対する警戒感を強め、韓国瑜氏への向かい風になっている部分があるのは確かです。

■韓国瑜氏の”自爆”発言「台灣中邪了嗎

 蔡英文総統優勢の流れは、対抗馬の韓国瑜氏の”自爆”にも助けられた面があります。韓国瑜氏は日本的に言えば「脇が甘い」政治家です。まず経歴。2018年12月に高雄市長に就任し、2019年7月、総統選挙の候補に選出されました。就任後わずか7か月での総統選出馬決定です。

 これには高雄市民から「市長の責務を果たしていない」などの批判の声が上がりました。見ようによっては高雄市長の地位を総統選への腰掛けポストとして利用したわけですから、高雄市民にすれば面白くないのは当然です。また、中国政府幹部との面会や、夫人(雲林県議会議員)の高級マンション売買などのスキャンダルで庶民派のイメージも大きく傷つきました。

 さらに1月2日に起きた軍参謀総長ら8人が死亡した台湾軍ヘリ墜落事件で「台湾は邪気に取り憑かれたのか(台灣中邪了嗎)」と発言。これはメディアから批判を受け、国軍からは「(死者に対する)冒涜」と指摘されました。

 例えば、自衛隊のトップが乗ったヘリコプターが墜落して8人が死亡した事故が発生した時に安倍晋三首相が「悪いものに取り憑かれてるのかな」と発言したら、どうなるかを考えてみてください。こうした発言で選挙の風向きが変わるのは台湾も日本も同じです。

 以上のような要因から、台北にいると蔡英文総統再選のニュースが流れる可能性は高いと感じさせられます。

 次回は投票に賭ける台湾の熱気・国民のパッションをお伝えします。

葛西健二(かさい・けんじ)>

 1976年、京都市出身。京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。修士論文は「台湾日本統治期初・中期における『理蕃』政策の変遷と『蕃通』警察官ーその役割変化及び言語学習環境ー」。中華民国教育部中国語能力検定試験一級(Master)。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。