日産前会長で、会社法違反(特別背任罪)などで起訴されたカルロス・ゴーン被告(65)がレバノンに逃亡した事件に関し、毎日新聞は1月5日付け紙面の社説で司法の失態を鋭く追及した。しかし、同紙は長期間の勾留を「人質司法」と激しく捜査当局を批判していた。その変節ぶりには驚かされる。

■「司法の基盤揺らぐ」と最大級の危機を煽る毎日新聞

毎日新聞さんは保釈に賛成だったのでは?

 ゴーン被告逃亡について、毎日新聞1月5日付けの社説は見出しで「ゴーン被告の国外逃亡 司法の基盤揺らぐ事態だ」と掲げた上で、以下のように述べている。

「国外逃亡されたことは、司法・関係機関全体の失態と言える。」

 関係機関がどこを指すのが分からないが、失態であるのは確か。しかし、「勾留の必要はない」「早く保釈しろ」という趣旨の主張をしていたのは毎日新聞である。

 逃亡したら「自分には責任がない」と言わんばかりの、この変節ぶりは何なのか。

■昨年3月保釈に賛成する毎日新聞 東京地検は憂慮

 カルロス・ゴーン前会長は2018年11月19日に金融商品取引法違反容疑で逮捕され、2019年3月6日に保釈された。この時の保釈の条件は、指定された住居の出入り口などに監視カメラを設置、通信環境が制限されたパソコンや携帯電話を使用することなど約10項目に及んだ。

 この点、毎日新聞は保釈された日の社説で、以下のように書いた。

「起訴内容に照らせば、これ以上の勾留の必要性は認められない。」

「身体拘束は…証拠隠滅や逃亡の恐れが現実的に想定されるやむを得ない場合に限定するのが原則だ。」

 海外から「人質司法」と批判されていたのを受けていたせいか「勾留の必要なし」、「実際に逃げる恐れがあるときだけ身柄拘束すればいいだろ」と言っていたのである。

 しかし、その時、東京地検の久木元伸(くきもと・しん)次席検事(当時)は記者会見で「いまだ証拠隠滅の恐れがある上、保釈条件には証拠隠滅を防ぐ実効性がないと考え」、東京地裁の保釈の決定に準抗告した理由を説明している。この時から検察ではゴーン被告による証拠隠滅の危険性を十分に感じ、会見でも明らかにしていたのである。

 それを毎日新聞は知らないはずがなく、それでも「勾留の必要なし」と言っていたのだから「眉毛の下の黒い丸は節穴か」と言われても仕方がない。

■再逮捕で検察批判「なぜ強制捜査が必要なのか」

 さらに4月4日にゴーン容疑者が再逮捕された時には、「逮捕や勾留は、あくまで容疑者や被告の逃亡や証拠隠滅を防ぐのが目的だ。その要件は厳格に判断すべきである。…住居への監視カメラの設置など厳しい保釈条件下で生活していたゴーン前会長になぜ強制捜査が必要だったのか。」と厳しく指摘した。任意で捜査すれば済むと考えていたのであろう。

 ところが昨年末にゴーン被告が2回目の保釈の状況で、密かにレバノン入りすると、しばらく社説では沈黙し、年明けの5日になってようやく扱った。その内容は冒頭に示したように「司法・関係機関全体の失態と言える。」というものである。

 関係機関全体とはどこを指しているのか分からないが、少なくとも東京地検は保釈条件が実効性がないと警告し、保釈の阻止に全力を尽くしていたのだから、その時点で出来ることはやり尽くしている。これ以上、手の打ちようがない。そして、東京地検の主張を無視して保釈したのは東京地裁であり、その決定を支持したのが毎日新聞である。

 まともな神経を持っていたら「当時の次席検事が言っていたように、罪証隠滅の可能性がは十分にあり、保釈すべきではなかった。結果を見れば、保釈すべきとしていた自社の考えは間違っていた」ぐらいは言うだろう。散々身柄拘束に反対しておきながら、逃亡したら「保釈した方が悪い」「水際で食い止めなかったのが悪い」と、自らは全く反省の色がない。

 新聞が売れなくなるのは、報道内容がどうこうだけではなく、こうした変節ぶりから信頼を失っているからではないか。