ジャーナリストの伊藤詩織氏(30)がTBSの元ワシントン支局長の山口敬之氏(53)に合意のない状態で性行為をされたとして損害賠償を求めた裁判の報道では、伊藤詩織擁護派の中には著しく合理性を欠く記事が少なくない。「Forbes JAPAN」で12月20日に公開された鷲見洋之氏の記事は、刑法を全く知らないであろう筆者によって書かれた”トンデモ記事”。その内容を紹介するとともに、刑事不起訴・民事有責についての私見を述べる。

■鷲見さん「構成要件」を分かってます?

Forbes JAPANさん、どうなってるの?

 鷲見氏による記事は「伊藤詩織さん勝訴、なぜ民事と刑事で判断が分かれたのか。性犯罪事件に示した2つの道筋」というタイトル。その中で山口氏が不起訴処分になった理由について、犯罪の構成要件の該当性が証明できないから不起訴になったという趣旨のことを書いている。

 準強制性交(刑法178条2項)の構成要件は(1)心神喪失か抗拒不能に乗じ、または人を心神喪失か抗拒不能にさせ、(2)性交等をすること、である。構成要件に該当しない場合は裁判所は無罪を言い渡し、それ以前に検察官が構成要件に該当しないと考えれば起訴は見送るであろう。

 そこまでの理解は出来ているようであるが、鷲見氏は以下のように書いている。

「伊藤さんの場合も、山口さんと飲食を共にした寿司店のトイレに入ってから、ホテルで目を覚ますまでの記憶がなくなっていた。つまり刑事事件では、記憶がない間の記憶を思い出し、自分がいかに抵抗不可能だったかを証明することが求められてしまう。」

 つまり、抗拒不能だった間の記憶がないから抵抗不可能であることが証明できない、よって構成要件該当性が証明できないと考えているようである。抗拒不能とは「心理的又は物理的に抵抗ができない状態」(条解刑法第2版p474)である。伊藤氏は泥酔状態であり、抗拒不能の状態にあったのは疑う余地はないし、山口氏も相手が泥酔状態であったことは認めている。つまり本件では構成要件該当性は問題にならない。

 鷲見氏の理論なら、女性を麻酔薬で眠らせて抗拒不能にして姦淫した場合は全て不起訴になる。書いていて、おかしいと感じないのか不思議である。

■性犯罪捜査は構成要件ではなく常識で判断?

 さらに、鷲見氏は以下のようにも記述している。

「確かに、構成要件の規定は、法の拡大解釈などを防ぐという意味で重要だ。だが、性犯罪事件の捜査においては、被害者の心理を理解した上で、常識に照らし合わせた考え方も必要なのではないだろうか。」

 鷲見氏は性犯罪の場合、構成要件該当性がなくても犯罪として処罰しろと考えているようである。犯罪とは「構成要件に該当し、違法で有責な行為」である。この定義を変えろというのであれば、刑法の体系そのものを変えなくてはいけない。お粗末としか言いようがない主張である。

■刑事不起訴・民事有責 こうすれば説明がつく

 では、なぜ検察官は山口氏を不起訴とし、裁判官は民事で有責としたのか。ここからは私見、判決文を読んでいないので、あくまでも報道される範囲での判断である。本件では山口氏は伊藤氏が性行為を合意していると誤信した可能性があると、検察官は考えたのであろう。

 被害者の承諾があると誤信した場合は、故意を欠くことになる。「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」(刑法38条1項)から、故意を欠く行為は有罪とできない。2人は2軒で飲食し、女性が泥酔している状況、そのような場合に山口氏が(伊藤氏は性行為に合意した)と誤信した可能性は排除できないと考え不起訴としたのであろう。

 そう考えると、民事で負けたのも納得がいく。おそらく伊藤氏は山口氏による性行為を不法行為と主張したのであろう。不法行為の規定は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法709条)である。

 東京地裁は山口氏について準強制性交の故意はともかく、少なくとも合意があると誤信した過失があるので不法行為は成立すると考えたのであろう。そのような判断枠組みであれば刑事不起訴、民事有責は説明がつく。

■「お疲れ様メール」の持つ意味

 山口氏はこの先、どう戦えばいいのか。山口氏の主張は「完全に合意があったのだから709条の過失はない、不法行為は成立しない」というもののようである。そうなると後日、伊藤氏から届いた「お疲れ様メール」が大きなポイントになると思う。

 伊藤氏が言うような「合意のない性行為を強制された」というものであったら、相手に「お疲れ様でした」というメールは通常あり得ない。その後、メールのやり取りで対立が生じて法的手段という話になっているようである。「お疲れ様メール」の段階では性行為があった時の精神状態が継続していると判断してもらうしかないと思う。

 控訴審での結果は分からないが、山口氏が逆転勝訴の可能性もないわけではないと思う。