豪州最強馬を決めるレース、G1コックスプレート(芝2040m)が10月26日、ムーニーバレー競馬場で行われ、リスグラシュー(牝5、栗東・矢作芳人厩舎)が優勝した。10月19日にはメールドグラース(牡4、栗東・清水久詞厩舎)がG1コーフィールドC(コーフィールド、芝2400m)を制しており、日本勢の活躍が目立つ。日本調教馬のローテーションが大きく変化しているのを感じさせられる。

■リスグラシューの海外遠征は極めて合理的選択

今秋リスグラシューは東京ではなく豪州へ向かった

 リスグラシューは今年宝塚記念を制しており、普通であれば秋はエリザベス女王杯が最高の目標になるところであろう。しかし、陣営は見向きもせずに豪州へと渡った。これは宝塚記念優勝馬はコックスプレートへの優先出走権が付与されて輸送費用が出る上、優勝すればボーナスとして200万豪ドル(約1億5000万円)が支払われるという大きなメリットがあるからと思われる。1着賞金は300万豪ドル(約2億2500万円)だから、今回、リスグラシュー陣営は合計で500万豪ドル(約3億7500万円)を手にしたことになる。

 ちなみにエリザベス女王杯の1着賞金は1億500万円、天皇賞・秋の1着賞金は1億5000万円で、2クラ連勝しても2億5500万円と、コックスプレートを優勝した場合の68%に過ぎない。エリザベス女王杯はともかく、天皇賞はアーモンドアイやサートルゥナーリアあたりが待ち構えているのだから勝機は必ずしも高くない。この2クラを連勝するよりは海外で一つ勝つ方が楽、しかも賞金が高いということを考えれば極めて合理的な選択である。

■海外と国内を同一線上に置いての選択

 以前の海外遠征は、日本で多くの大レースを勝ち、新たな敵を求めて海外へというパターンが少なくなかった。シンボリルドルフやディープインパクトはそのパターンであろう。エルコンドルパサーもそれに近いと思う。

 しかし、今の時代は適クラを求めて国内・国外を同一線上に置いて検討するようである。海外で国内以上の活躍をするのはステイゴールドが代表格だが、エイシンプレストン、エイシンヒカリ、ウインブライトなどはその例と言っていい。メールドグラースは今秋、日本にとどまっていたらG1を勝てていたかどうか。次は11月5日のメルボルンCに出走するようであるが、遠征して馬が自身の未来を切り開いたとも言える。また、トップ級の馬が海外に出ても国内のG1戦線が手薄にならないという層の厚さ、全体のレベルアップという日本の競馬全体の事情もある。

 JRAも海外競馬の馬券発売を開始したので、海外遠征を積極的に進めたい考えがあるのは間違いない。そうなるとこの後の日本の競馬は、凱旋門賞は別格として、日本のレースより勝ち目があると見たら積極的に遠征する流れがさらに強まると考えられる。相手関係と賞金を考えれば、香港と豪州は格好の狙い。UAEドバイはさすがに相手が強いが、3月という時期を考えれば古馬は遠征しやすいし、勝てばかなり高い確率で種牡馬入りできるという事情もあり、少なくとも春の天皇賞より、はるかに魅力がある。

■日本の競馬産業全体の発展につながる勝利

 こうした遠征での成果が続けば、日本の優秀な競走馬を輸入しようという流れになってくるであろう。実際に多くのディープインパクト産駒が欧州で活躍しているし、豪州でもG1勝ちを収めたばかり(G1トゥーラクHを制したフィアースインパクト)。

 日本の競走馬生産は1992年の1万2874頭をピークに減少し、2018年は7250頭と実に56%に縮小している。もっとも、ボトムは2012年の6837頭で、そこから徐々にではあるが上昇傾向を示している(日本軽種馬協会HPより)。海外で日本産馬の強さを示す流れが続けば、日本の産業の中でも数少ない成長が見込める産業になる可能性はありそう。そんなことを考えさせられるリスグラシューの快挙であった。