スポーツライターの金子達仁氏が10月7日、Number WebでまたラグビーW杯の記事を公開した。10月5日のA組、日本vsサモア戦で、12点差を追うサモアが終了間際で自陣深くでスクラムを選択したことについて考察している。それがまた、何とも理解に苦しむ内容であった。

■スクラム選択は「ボーナスポイントを考えた」

松島(中央奥)がトライ(NHK画面より)

 金子氏の記事は「サモアにスクラムを選択させた熱気。外交辞令じゃない『素晴らしいW杯』」。というタイトル。例の如く、あれこれ余計な前振りで行数を稼いでいるのは、単に書くだけの内容がないからではないかと思う。

 31-19と日本リードの後半40分を過ぎてから、サモアは自陣でペナルティーを得たが、キックを選ばずにトライを狙ってスクラムを選択した。その点について金子氏は「サモアのラム主将によれば、自陣深くにも関わらずスクラムを選択したのは、『ボーナスポイントを考えたから』だったという」と書いており、客観的に考えて、それが全てであろう。

 ところが金子氏は「ではなぜ、彼らは蛮勇を振るったのか。なぜ、絶望的な可能性に賭けようとしたのか。」と自問し、「豊田スタジアムが、経験したことのない雰囲気だったから、ではなかったか。」と自答している。「陸上トラックのない、専用競技場での熱気は、サモアの選手たちの心理状態に何らかの影響は与えなかったか。」とも。

 その上で「エコパはジャパンを後押しし、勝利へと導いた。豊田は、専用競技場は、相手をも動かした。そう思えることが、嬉しい。」と結んでいる。

■サモアにあった僅かな可能性と、新たなリスクの不存在

 この分析はおかしいと思う。ラグビーについては僕も素人であるから、これは素人考えであることを前提に読んでいただきたい。

 もし、サモアが19-31で負けている状況でタッチに蹴り出して試合を終わらせたら、勝ち点5で1試合を残して、1次リーグ敗退が決まる(日本は勝ち点13となり、アイルランドは既に勝ち点11)。つまり、自分で1次リーグ敗退を決定させるプレーであり、そのようなことを選択するラガーがいるとは思えない。

 しかし、サモアがスクラムを選択してボールを回し、トライを奪ってコンバージョンも決まったら26-31となり、ボーナスポイント1が入り勝ち点は6となる。残るアイルランド戦で勝ち点5を挙げれば勝ち点11で並び、直接対決で勝つことになるからアイルランドを上回る。

 そしてスコットランドがロシアに勝って勝ち点を10としても、日本が最終戦でスコットランドにボーナスポイントを与えずに勝てば、サモアの決勝トーナメント進出が決まる。

 それは極めて可能性が低いのは誰もが分かっている。だが、考えなくてはいけないのは、仮に自陣でスクラムを選択して逆に日本にトライを奪われボーナスポイントを与えたとしても、自チームはタッチに蹴り出すのと同じ、1次リーグ敗退が待っているだけである。あえて言えば12点差で負けるか19点差で負けるかの違いだけで、これはサモアにとって何の意味も持たない。

■サモアにはスクラム選択とアイルランドの違い

 つまり、サモアがスクラムを選択したとしても、サモアはそれによって負うべきリスクなどなかったのである。リスクがゼロなら、どんなにわずかな可能性でもそれを信じて攻撃するのは当然。「スタジアムが相手も動かした」などと書くのは全く的外れな指摘であると僕は考える。

 9月28日の日本vsアイルランド戦は7点リードされたアイルランドがタッチに蹴り出してゲームを終わらせた。これはプレーを続ければ、ほぼ手中にしている勝ち点1を失う可能性を考えたことを後に蹴り出した選手が証言している。

 世界最高の舞台のW杯で、スタジアムの雰囲気に流されて合理性を欠く行動に出る選手はいない、とまでは言わないが、ほとんどいないと思う。金子氏の記事は明らかに合理性を欠いている。

 金子達仁さん、悪いことは言わないから、もうラグビーのことを書くのはやめたらどうか。