リクナビを運営するリクルートキャリアが厚労省から東京労働局を通じて行政指導を受けたことが、9月6日に明らかになった。リクナビを利用した学生の内定辞退率を予測して他社に販売するサービス「リクナビDMPフォロー」が、職安法に違反されたと判断された件である。この問題の背後にはリクルートというグループの体質に問題があるような気がする。

■記者の取材源秘匿、患者の秘密保持…リクナビはビジネス化

優秀な社員が多いリクルートなんですが…

 リクナビの問題は学生の就職活動を支援しながら、採用する会社の方に「過去のネットでの動きを見る限り、この学生の内定辞退率は◯%ぐらいですね」と伝えていたことになる。就職を支援するリクナビを信じて情報を開示した学生の信頼を裏切る行為をビジネスにしてしまう神経が理解できない。

 僕は新聞記者だったが、どんな場合でも情報源は絶対に秘匿する。それが職業上、絶対に守らなければならない倫理。情報提供者はリスクを負って秘密を暴露してくれていることが多く、それは僕を信じて喋ってくれたことに他ならない。その信頼を裏切って、その会社に「ソースはあの人ですよ」と教えるようなことは社会人どうこうではなく、人としてしてはいけない。

 弁護士の依頼人の秘密、医師の患者の秘密、多かれ少なかれ職業上の倫理というものを守って仕事をしている。リクルートキャリアは、そうしたビジネスに最低限必要な倫理観すら持ち合わせていなかったということであろう。信頼を裏切られた大学生は「大人は汚い」と思うに違いない。これから社会に出る大学生にそんなことを思わせることの罪の重さを自覚した方がいい。

■大学生相手のパンフレットの編集で「編集のプロ」

 リクナビの問題を聞いた時、「リクルートならやってそうだな」という感想を持った。僕も仕事柄リクルート関係者と接触することが少なくないが、一言で言えば「勘違い系」とでも言うような自分の能力を過大評価して、周りが見えなくなっている社員が少なくないように感じる。

 以前、僕がある雑誌に記事を書いたのだが、その取材対象の奥さんがリクルート出身者で、あれこれと注文をつけてきた。「赤を入れます」と、いきなり上から目線でやってきて驚かされたが、リクルートのグループ会社の1つで文章を扱う仕事をしていたらしく本人なりの自信があったらしい。僕も聞くべき点は聞いていたが、そのうち原稿の一番大事な部分を直せと言ってきた。

 取材対象が「●●●●●●です。なぜなら、××××××××××ですから」と語っている部分を「××××××××××ですから、●●●●●●です」とするように言ってきたのである。僕が「なぜ、直す必要があるんですか?」と聞くと、その女性は「倒置法になっているから、普通の話し言葉に直した方が読みやすいからです」と言う。ドキュメンタリーのような原稿でも、すべて読みやすい日本語にした方がいいという程度の認識のようであった。

 僕は「あなたのご主人がそう言ったのをそのまま書いたんですよ? それで、どうして僕が倒置法のまま書いたか分かりますか?」と聞くと、(何でそんなことを聞くの?)という顔をして黙り込んでしまった。「分かりません」と言うのはプライドが許さなかったのかもしれない。それを分からないで言う神経にも驚かされるが、それならということで説明した。

 「あなたのご主人は冷静な方なのか、終始、理路整然と話していました。ところが段々、熱が入ってきて、その部分だけ倒置法で語ったわけです。つまり言いたいことを先に言って、後から説明すべきことを加えた形です。まさにそれが言いたかったということです。話し言葉としてやや不自然になるほど、そこを強調しているというのが読者にも伝わるように、そのままの形にしました。不自然な喋りにこそ、彼の真意が隠れていることを読者に知らせる狙いです。その狙いを理解した上で、あなたは『赤を入れる』と仰ってるんですか?」と少々厳しく言った。

■リクルートは井の中の蛙化してしまうのか…

 リクナビの問題が出た時に彼女のことを思い出したが、リクルートという括りの中、何か共通する部分があるような気がした。自分のやってきたビジネス手法はすべて正しいという思いからくる、社会通念との乖離。

 それが自分の力を過信する方向にベクトルが向いた場合には、大学生に配るパンフレット程度の編集しかやってないのに「私は編集のプロです」みたいな錯覚に陥り、他者との関係に対する想像力の欠如という方向にベクトルが向くと、相手の信頼を逆手にとってビジネスにすることにも何も痛みを感じないようになる。

 己を知るということの大事さをリクナビだけでなくリクルート関係者はもっと認識すべきだと思う。どこか自分に驕りがなかったか、我が身を振り返ってほしい。ビジネスは相互の信頼関係があってはじめて成立するのであり、相手が学生であったとしても最大限尊重しなければならないのは変わらない。職業上知り得た秘密は漏らさない。この当たり前のことができないなら、社会人失格であることは理解すべきであろう。