先の参議院選挙(7月21日)で当選したNHKから国民を守る党の立花孝志代表が、8月8日に参院議員会館事務所に置いたテレビ1台の放送受信契約(衛星放送を含む)をNHKと交わしたことを発表した。ところが受信料は80%だけ支払い、差額分の受信料は支払わないと記者会見で明らかにしている。報道を見る限りであるが、立花氏にはいわゆる2項詐欺(刑法246条2項)が成立するのではないかと思う。

■受信料の8割だけ支払う意思で契約した立花氏

立花氏は払う意思がないのに契約したのか?

 立花氏は会見で「受信契約は国会議員が決めた法律なので守るが、支払いは国会で決めていない」と主張したという。その上で、国民の受信料の支払率が約8割であることを根拠にして8割分の支払いが合理的であるとし、差額の20%の支払い義務はないことを理由に債務不存在の確認の訴えを提起すると伝えられた。支払率と自己の受信料の負担の因果関係の説明はなかった模様である。

 問題になるのは立花氏が、最初から支払う意思がないのに契約をしたという事実である。この行為は2項詐欺罪が成立すると思う。2項詐欺とは財物(たとえば宝石など)ではなく、財産上の利益(債権、債務の免除、労務・サービスの提供等)を得るもの。2項詐欺罪の構成要件は、①人を欺いて、②財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させたこと、である。もう少し細かく言えば、以下のようになる。

(1)欺く行為(欺罔)

(2)それに基づく錯誤

(3)錯誤に基づく財産上の利益の交付(処分)行為

(4)財産上の利益の移転

(5)財産上の損害が相当因果関係にあり、故意により包摂されていること

■立花氏の行為、2項詐欺の構成要件該当性は?

 上記の構成要件に該当するか、順次見ていこう。

 (1)立花氏は放送受信契約を締結した。そのことは日本放送協会受信規約第5条にある(放送受信料支払いの義務)を承諾したということである。ところが、最初から契約にある金額を支払う意思を持っていないのであるからNHKに対する欺罔行為である。

 (2)一方、NHKは立花氏が契約する以上、全額支払ってくれるものと錯誤に陥った。

 (3)その錯誤に基づき、NHKは立花氏と契約を交わした。

 (4)契約を交わしたことによって、立花氏はNHKの放送を視聴することができる地位、もしくは未契約分の債務を免れる地位(財産上の利益)を得た。

 (5)NHKは本来、入るはずであった受信料が入らない、あるいは生じるはずだった債権が生じないという損害が生じ、その損害は立花氏の欺罔との相当因果関係が認められ、最初から全額は支払わないという立花氏の故意に包摂されている。

■NHKは全額支払ってくれると思って契約

 もっとも問題になる点はある。(2)に対して立花氏は最初から全額は支払わないと公言しておりNHKは錯誤に陥っていないという反論、(4)仮に契約しなくてもNHKの視聴は可能で、視聴できる地位は財産上の利益にならないという反論がなされる可能性を考えないといけない。

 (2)については、契約は日本放送協会受信規約によるのであるから、それに基づいて契約をしたということは同規約第5条について同意をした、つまり受信料の支払いを行う意思を示したということである。立花氏が全額支払わない旨を公言していたとしても、契約をしたという行為から、支払う意思があると判断するのは当然である。この点をNHKの「受信料に関するお問い合わせ」に電話で確認した。

松田:NHKさんとしては、契約した人は払ってくれるという認識でいるわけですよね。

NHK担当者:もちろんです、はい。契約イコール支払いということになりますから、それはおっしゃる通りです。

松田:認識としては、この人は最初から払う気がないと思って、契約をするわけではないですよね。

NHK担当者:ないですね、はい。

松田:100%ないですよね。

NHK担当者:受信機を設置した以上、契約ありき、契約は必要です。ただ、それだからといって、支払いは必要ないですよというところは、認めることはありません。

 立花氏が何を言おうが、NHKは契約した以上、全額支払われるという認識でいるのは間違いなく、その時点で立花氏によるNHKへの欺罔行為は成立していると言っていい。

■立花氏が契約で得たものは、債務を免れ、視聴できる地位

 (4)は、少々、面倒な説明になるが、お付き合いをいただきたい。まず、放送法64条1項前段で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」とされていることから、テレビを買った者は放送受信契約の義務を有する。未契約者に対してNHKは放送法に基づいて放送受信契約の締結を求めるが、重要なのは、契約はテレビを設置した日に遡って成立することである(日本放送協会受信規約第4条1項)。1月にテレビを設置していたら、8月に契約をしたとしても1月からの受信料を遡って請求される。契約した段階で、未契約だった部分の受信料の債務が発生するのである。

 ところが支払う気なしでも契約をすれば、この未契約となるはずだった月の債務を免れることが可能。契約すれば同額の受信料の債務を負うことになるとはいえ、それは同額の債務を負うということであり、他方の債務を免れるという事実は変わらない。その意味で、債務を免れる地位を得たと言い得る。つまり、未契約分の債務を免れる意思で、支払う気もないのに契約をしたということである。

設置確認メッセージ(NHKのHPより)

 別の考え方もできる。BSデジタル放送では未契約の状態であれば画面に設置確認メッセージが出され、契約しない限り、この目障りなメッセージは残る。「これが邪魔」と考え、取り除くために支払う意思がないのに契約してメッセージのない放送の視聴を可能にできる地位を得たと考えることも可能。いずれにせよ、このような論理で立花氏が財産上の利益を得たとする考えは成立し得る。そのように僕は考えている。

■立花さん、刑訴法239条1項を覚えてはいかが?

 立花氏はNHKと民事訴訟で争うことを考えているようだが、僕が指摘しているのは刑事である。NHKはあくまでも民事訴訟で受信料の支払いを求める姿勢であり、刑事告訴(刑事訴訟法230条)の考えはないようで、前出のNHK担当者もそのような話をしていた。そうなると、立花氏の行為を捜査の対象にすることは難しいとも思える。

 立花氏は刑事訴訟法がお好きなようで現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)は私人でもできることを利用し、選挙で一度だけヤジを飛ばした者を「現行犯逮捕」と称して大勢で付きまとって取り囲み、タクシーに乗るのを妨害し、その様子をyou tubeで公開した。これは暴行罪(刑法208条)が成立しそうではあるが、それはこの際、置いておく。せっかくなので、この機会に、もう1つ刑事訴訟法の条文を覚えておくことをお勧めしたい。

 それは、239条1項。条文だけ示しておこう。

何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」。