ムスリムというと宗教に厳格で、酒や豚肉などは一切口にせず、日々「アラーアクバル」と唱え、独特の世界観で生きているというのが我々の大方のイメージではないだろうか。日本に観光にやってきてもハラール認証のある店以外は行かずに、厳格な戒律を守っているというイメージはあるし、実際に僕もそういう取材をしてきた。

浅草寺の近くの成田屋さんは今日もムスリムで大にぎわい

 浅草寺の近くにあるラーメン店の「成田屋」はハラール認証を受け、客のほとんどはムスリムである。僕は仕事で成田屋のラーメンを口にしたが、当然とんこつラーメンではない。スープはかなりあっさりしていて、こってり系が好きな人には少し物足りない感じがする。

 とにかく僕のように、取材等でちょっとだけムスリムと関わった人間からすると、ムスリムのイメージは冒頭で示したような厳格な戒律に生きる人々である。

 そんな僕が勤務先で、日本語のスピーチコンテストに出場予定の留学生の手伝いをすることになった。国民のほとんどがムスリムである東南アジアの国からやってきたA君は、当然のようにムスリムである。いつも明るいA君、どうにもムスリムのイメージからは遠い。彼とスピーチコンテストでどんな話をするか2度ほど話し合いをしたが、話を聞いてびっくり。22歳の彼はムスリムなのに酒は飲むし、豚肉も食べるというではないか。屈託なく話す彼に、僕が持っていたムスリムのイメージはどんどん崩れていった。

松田:母国でも豚肉を食べてたの?

A君:僕の国で豚肉が売ってるわけないじゃないですか(笑)。

松田:じゃあ、日本に来て初めて食べた?

A君:そうです。

松田:何の料理?

A君:チャーシュー!

松田:味はどうだった?

A君:美味しかったです。

松田:お酒は?

A君:ビールが好きです。

松田:これも日本に来てから飲むようになったの?

A君:いえ。自分の国でも父親と一緒に飲んでました。

松田:それ、ダメでしょう(苦笑)。

A君:大丈夫ですよ。僕の国でも半分ぐらいの人は家で隠れて飲んでますから(笑)。

松田:モスクに行く前に飲んだりなんてことは…

A君:バレたら大変ですから、モスクに行く前は飲まないようにしてました。

松田:日本でムスリムの同級生から何か言われない?

A君:ウズベキスタンから来た同級生に「酒と豚肉はダメだぞ」と言われたけど、「ボクはダイジョウブですよ~」って言ってます。その同級生はハラールの店しか行きませんけど、ボクは”ダイジョウブ”です。

松田:イスラムの戒律は守らなくてもいいの?

A君:先生、生きているうちに楽しいことしないと、意味ないですよ(笑)。

 いや、もう最後は笑うしかなかった。テレビでモスクで祈りを捧げるムスリムの姿を目にする機会は少なくない。しかし、A君の国では、その半分が酒を飲んでいるというのであるから、僕が持っていた世界観が音を立てて崩れていく。「生きているうちに楽しいことしないと、意味ないですよ」なんていつそんな日本語を覚えたのか(笑)。確かにA君の言う通りではないか。その類の言葉をムスリムから聞くとは…。

 そして最後にA君はこう言った。「アメリカ人は僕たちムスリムを、テロリストのように見るのかもしれないけど、その多くはアメリカ人と同じで酒を飲んでるし、僕のように豚を食べているムスリムもいます」。

 まずは会って話すことが相互理解に繋がるということであろう。本では学べないムスリムの話に、いたく感動した次第である。