5月26日の朝日新聞の社説は「米国の車関税 暴挙を繰り返すのか」と題してトランプ大統領が自動車とその部品の輸入がアメリカの安全保障を脅かしていないか調査するように、ロス商務長官に指示したことについて論じている。音声データはこちらから。

社説を書く前に条文に当たろう

これは、大統領が乗用車への関税を現行の2.5%から最大25%に上げることを目指しているものと言われている。こうした一方的な保護措置を認めれば世界の自由貿易システムは成り立たなくなるのは明らか。WTO、世界貿易機関もこうした措置を禁じているのは大方の人がご存知であろう。

これに対してアメリカは国内法である通商拡大法232条に基づいて、3月に鉄鋼・アルミニウム製品に新たな関税をかけたが、今回の自動車とその部品も同じ枠組みで考えていると思われる。気になったのは以下の部分。

「一方的な輸入制限を禁じる世界貿易機関(wto)も、安全保障の観点から例外を認めている。ただし、戦時のような緊急事態を想定してのことだ。米国も82年にリビア産原油に発動して以降、とってこなかった。極めて異例の措置である」。

WTOが安全保障上の例外を認めているのは、「関税および貿易に関する一般協定」いわゆるGATTの21条。ここの条文は少し込み入っており、GATTの規定は、安全保障に関して以下の場合は適用しませんよ、という適用除外の条文。自動車とその部品に関しては、B項2号。和訳された条文は以下の通り。

(GATT21条B項2号)

武器、弾薬および軍需品の取引ならびに軍事施設に供給するため直接または間接に行われるその他の貨物および原料の取引に関する措置

この措置に関するものであれば、GATTは適用されないということ。トランプ大統領はおそらく自動車とその部品について、それが軍需品や、軍事施設に供給するため間接に行われるその他の貨物に含まれるかどうかというのを念頭に置いているのであろう。そこをよく調べて、米通商拡大法232条で規制が可能かどうか調べてくれと商務長官に命じたと考えるのが通常の思考法。朝日新聞はGATT21条が「戦時のような緊急事態を想定してのこと」と極めて限定的にとらえているが、条文を読むとそのようなことはない。

朝日新聞が指摘した点は21条B項3号と思われる。こちらも和訳された条文を示そう。

(GATT21条B項3号)

戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置

朝日新聞の「戦時のような緊急事態を想定してのこと」という条項は確かに存在しているが、それは取り決めの一部でしかなく、今回、トランプ大統領はこの条文については問題にしていないはず。日本やドイツ、韓国を対象に置く場合、この条項は全く適用の余地がないのは明らかだからだ。あくまでも21条B項3号ではなく、2号の問題。

社説を書く時にこんな基本的なことを確認しないのかと、不思議に思う。この程度の条文は国際条約集に掲載されているから、それぐらいは確認して書いてほしい。僕はロースクール在学中、教授によく言われた。「まずは条文に当たれ」。

基本中の基本が出来てない社説って、何なのだろうと思う。