投票に参加しない権利に気づかないか…(朝日新聞12月24日付け社説から)

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 今日はというより今日もだが、12月24日付けの朝日新聞の社説を取り上げる。タイトルは「沖縄県民投票 等しく参加の機会を」。音声データは「こちら」から。

 内容は来年2月に行われる沖縄県民投票について8つの市町の議会が投開票事務の経費を計上した予算案を否決または削除したことについて批判をしたもの。この問題は少し分かりにくいので僕の方で簡単に説明しておこう。

投票に参加しない権利に気づかないか

 地方自治法74条1項は有権者の50分の1以上の署名を持って条例の制定又は改廃の請求ができることを定めている。これに基づいて反基地団体と思われる団体が9万人を超える署名を集めて米軍基地建設のために辺野古の海を埋め立てることについての賛否を問う条例の制定を請求し、10月の県議会で関連条例が制定されたというものである。それが「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」。

 これに対して県議会では野党の立場の自民・公明は「賛成」「反対」に加えて「やむを得ない」「どちらとも言えない」の選択肢を設けるように主張した。「賛否だけでは多様な意見をすくい上げられない」というのが理由である。しかし、結局、賛成、反対だけとすることで可決されたため、一部の市や町の議会が事実上、投票に参加しない決断をしたというのが大雑把な流れ。

 これに対して、朝日新聞は次のように書いている。「このままでは住んでいる場所によって、投票権を行使できる人とできない人とが生まれることになる」、「投票自体を否定する動きには賛成できない」。こうして事実上、投票に参加しない8市町を攻撃している。

 この主張はおかしいと思う。そもそも住民投票は選挙とは違って何の政治的効力も発生せず、その投票権は選挙権と違って必ずしも全ての有権者に付与されなければならないものではない。そして何より、県民には「投票に参加しない権利」もあるということに朝日新聞は気づいていない。

 政治的な効力のない投票で、国防上の問題や普天間基地からの移設を考えれば仕方がないなと考える人が、賛成か反対かを問われれば反対に投票する可能性はある。そもそも政治的効力がないから、賛成の人がわざわざ投票に行くことは考えにくい。そのような投票行動が予想されるため、その結果によって反対が沖縄県民の多数の意思であるという主張につながることに危惧する人たちが「この投票は民意を正確に反映するとは思えないから、投票に参加するのはやめさせたい」というのも、また一つの民意である。正確に民意を反映しない住民投票が行われることに反対し、自分だけが投票を行わない権利は当然あるし、自治体として行うべきではないと主張、行動する権利も、また、一種の権利の行使であろう。

 8市町の議会がそのような決定をすることが許されないと考えるのであれば、地方自治法76条1項の規定から、有権者の一定数の連署を集め、議会の解散請求をすることができる。民主的な手続きは保障されているから、8市町の議会の行動は何の問題もない。逆にそういう権利を行使している8市町の議会を批判する朝日新聞こそ、民主主義の何たるかを理解していないのではないかと思う。

 結果として県と8市町の対立となっている状況について、朝日新聞は最後にこう書いている。「辺野古ノーの民意を踏みにじり、基地建設を強行する政権が、この分断・対立をもたらしている元凶であるのは明らかだ。その罪は、いよいよ深い」。

 罪だって。民主主義の原則を踏みにじる主張をする新聞が、何を言うか、という感じである。

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