小選挙区制はいいが選挙結果が気に入らないという理論(1/1朝日新聞社説)

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 元日の朝日新聞の社説は「政治改革30年の先に 権力のありかを問い直す」というものだった。1989年5月に自民党の政治改革大綱が世に出されてから30年、当時目指したはずの二大政党はなお実現に程遠い現状を示し、日本にとって政治制度がどのようにあるべきかを問う、元日にふさわしい社説にしたという感じである。音声データはこちらから。

元日早々、ご都合主義満載の朝日新聞

 この社説は致命的な欠陥があると僕は思う。それは国民にとってどのような政治制度が好ましいのかを論じているのではなく、朝日新聞が好ましく感じる結果が導けるような制度にしたいという思いがにじみ出ているからである。大所高所から語るのではなく、私利私欲のために語っているように感じられる。国民のためではなく、朝日新聞のため、あるいは朝日新聞が支持していると思われる少数の集団の意見を政治に生かすために書いているように読めるから、著しく読後感の悪い内容になっている。

 僕も文章を書くことを生業としているから、それなりにわかるつもり。いい文章が書けるかどうかは、根っこの部分、基本的な価値観がしっかりと確立できているかにかかっている。

 具体的に見てみよう。

 社説は小選挙区制について功罪を述べているが、そこの分析が合理性を欠いている。そもそも小選挙区制について、この日の社説は「一方を圧勝させ、強い政権を作らせる。思う存分やらせて、ダメなら他方に取り替える。改革の成否は、そのサイクルが確立されるかどうかにかかる」と書いている。それはその通りであろう。

 しかし、朝日新聞はこう続ける。「行き着いた先が安倍1強である。今、執政の中枢である首相官邸への権力の集中はすさまじい。その使い方も実に荒々しい。非力な野党が政権を奪い返す展望は見えない」。

 つまり、制度は正しいが、それによって生まれた結果が気に入らないということ。主権者たる国民の選択に異を唱える媒体は民主主義を否定するに等しいことに気づかないのだろうか。実際に小選挙区制によって2009年に民主党政権が誕生した。その結果、国民は民主党がいかに役に立たないか身を持って知ることになり、2012年の総選挙では民主党を大敗させたのである。

 その後、民主党は分裂に追い込まれたのはご存知の通り。小選挙区制のおかげで国民の多くは「野党は口だけ」を身を以て知ったのであり、これは大きな収穫と言える。その貴重な学習の成果が、今の安倍政権。満6年経った今でも4割前後の支持率を保持しているのは、民主党政権がいかに役に立たなかったかを国民が思い知ったからと言えるだろう。

 それで朝日新聞は小選挙区制に反対なのかと思いきや、「だが、急ぎすぎてはならない。与野党も有権者もまだ、今の制度を十分使いかなしているとはいえない現状を考えたい」と小選挙区制維持の方向性を示している。

 理由は、おそらく(政権交代の夢よもう一度)ということなのであろう。安倍1強を生んだ小選挙区制を攻撃しながら、政権交代の可能性がほぼなくなる大選挙区制の導入には慎重というのは、結局、「自分たちの願う通りに政権交代してほしいから、小選挙区制を維持すべき」と言っているに等しい。安倍1強がいやなら自民党に圧倒的な議席を与える小選挙区制を廃止して、比例代表制を主張すればいい話。ご都合主義という言葉がこれほど似合う社説もない。

 それ以外にも首相の解散権の行使に一定の制約を加えようと提案している。「不意打ち解散戦略は、改革の眼目の一つだったマニフェスト選挙を台無しにした」と書いているが、首相が重要な決定の前に国民に信を問うことに制約を加えようというのか。これも民主主義を否定するもので、野党に有利なように、つまり朝日新聞が望むように首相の権限を制約しろと言っているに等しい。

 これが朝日新聞のクオリティー。もう政党の機関紙と変わらないクオリティーと言っていいと思う。

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