財務省の福田淳一事務次官が辞任した。テレビ朝日の女性記者に対するセクハラ発言が原因だが、「(音声データは)一部しかとっていない。全体を見ればセクハラに該当しない」と言っている。

取材で得たものは、取材目的以外に使うべきではない

セクハラか、そうでないかの線引きははっきりしたものがあるわけではないから、どう判断するかは難しい。そのあたりは無関係の僕があれこれ言う問題ではない。

そうした問題はともかく、取材する立場の人間としてはこの問題について「取材者のモラル」という点で考えさせられる。結論を言えば、僕はテレビ朝日の女性記者の行為は許しがたいと思っている。女性記者は福田事務次官に対して、以下の行為に及んでいる。

(1)取材目的で会食した

(2)無断で録音した

(3)録音した素材を他媒体に提供した

(4)他媒体に、事務次官に関連する情報を提供した

問題なのは(2)と(3)。僕も取材時は必ず録音する。相手の発言をすべて記録して、相手の意図を正しく記事に反映させるためである。そのことは記事が出た後で「言った」「言わない」の水掛け論になるのを避けるという意味、つまり相手方にも発言の責任を負ってもらう意味も含む。

そして、ここが大事なところで、僕は録音する時には相手の許可を得た上で必ずこう断る。

「録音したものは、取材目的以外に使用しません」

これまで数え切れないほど取材をしてきたが、録音を断られたのは1回だけ、東京都庁での取材の時。相手にすれば自分の発した声という究極のプライバシーの情報を与えるわけだから、別目的で使われたらたまらない。忙しい中、取材に応じてくれた相手、つまり自分を信用して話をしてくれた人間をだまし討ちにするような行為は、取材者として絶対にやってはいけない。なぜなら、取材は相互の信頼関係で成立するからである。

無断で録音し、その素材を他媒体に提供するような記者は、おそらく、その後まともに相手にしてもらえないだろう。信頼できない記者に話をする取材対象など、存在しないと思う。

今回の問題がどう着地するか分からないが、福田氏が名誉毀損で新潮社と女性記者を告訴する可能性はある。公共性や公益性から違法性が阻却されるという判断が出されるかもしれないが、このあたりは微妙な判断であろう。報道の自由に関わる憲法判断という部分にまで及ぶかもしれない。

こういうことを書くと「女性記者はセクハラ被害を受けていたから、やむを得ない」「女性とその人権を軽視している」といった反論をする方もいると思う。そういう方に言いたいのだが、まず女性記者は直接相手に「そういう発言はやめてください」と言うべきであろう。それでもやめなければ「録音しますがいいですか?」と言ってレコーダーをその場で取り出すなどの方法もあったはず。それを勝手に録音して他媒体に持ち込んで取材相手に名誉毀損とも思える行為に及ぶとは、僕からすれば考えられない行為で、そのことで福田事務次官は辞任し、名誉を大きく傷つけられているのである。

取材の現場で嫌な思いをすることは、いくらでもある。嫌な思いをするのは女性だけの特権ではない。かなり昔になるが、僕の知り合いの男性記者は、取材相手に殴られて歯がグラグラになるという被害を受けている。記者への暴行事件ということで、結構話題になったからご存知の方もいるだろう。危険が潜んでいるのは女性だけではない。

それに対して僕を含む多くの記者は、適法な範囲で抗議するなりして問題を解決する。それが報道の自由という、憲法で保障された権利に基づいて仕事をする僕たちの使命であり、持たなければならない矜持である

メディアは福田事務次官をたたく時間があれば、取材者のモラル、名誉毀損に関する過去最高裁の判例に言及すべきであろう。毎日新聞の西山記者による外務省機密漏洩事件で最高裁がどういう判断をしているかぐらいはよく読んで、伝えるべきだと思う。